【8月24日マッチデープログラム】 KUFC MATCHDAY PROGRAM 2025 vol.13
鹿児島ユナイテッドFCのマッチデープログラム電子版。
今回は8月24日に行われる2025明治安田J3リーグ第24節、鹿児島ユナイテッドFC vs AC長野パルセイロのマッチデープログラムです。


2025明治安田J3リーグ第23節
vs SC相模原 会場:白波スタジアム(鹿児島県立鴨池陸上競技場)


コラム「鹿児島をもっとひとつに。vol.50(Total vol.62)」
前田祐希さん(いちき串木野市医師会立脳神経外科センター)

10,238名と今季最多の来場者が訪れた8月16日の前節。
人数が増えているのだから当然のことですが、熱中症や脱水症になる方が出る可能性は高くなります。
この試合でAEDボランティアを務めてくださった前田さんは、その対処に試合中も右へ左へ。
いつもは試合前後の時間帯が多い傾向があるそうですが、今回は試合中でも体調を崩す方がいらして…
山口卓己選手の折り返しを河村慶人選手が押し込んだ2点目、藤村慶太選手のパスを受けたアンジェロッティ選手の3点目は我が目ではなくコンコースや階段で気分のすぐれない観客の介抱をしながら、サポーターの大歓声で決まったことを把握しました。
鹿児島ユナイテッドFCへの想いと、自分が試合の決定的場面を見逃す可能性がある立ち位置とを、まだ23歳の前田さんは、どのように折り合いをつけているのだろうと思いながら今回の話をうかがいました。

自身の経験から理学療法士へ
前田さんは薩摩川内市の生まれ、薩摩川内市の育ち。
特定のスポーツをずっとするというわけではなく、水泳をしたり、空手をしたり、純粋に身体を鍛えるトレーニングをしたり。
しかし、高校生だったころに椎間板ヘルニアになってしまいます。
「それでリハビリでお世話になったこととか、もともと趣味でトレーニングとかはちょいちょいしていたし、もっと筋肉のこととか栄養のこととか学びたいってなって。
あとは親も看護師で、“そっちの道どう?”みたいに言われたのもあって、それでそっちの道に進むかなと」
地元の鹿児島県立川内高校を卒業すると、お隣いちき串木野市にある神村学園専修学校で理学療法士になるための勉強をして、資格を取得して。
そのままの流れで、同じいちき串木野市にある脳神経外科センターに就職しました。
スポーツにおける理学療法士の場合は筋肉系や骨折などの怪我から、再びプレーに復帰できるだけの運動機能を取り戻すためのリハビリが仕事になります。
対して前田さんが選んだ脳神経外科の理学療法士は、脳卒中や脳損傷などの影響で手足を動かす神経が十分に機能しなくなった患者が日常生活に戻っていくためのリハビリが仕事です。
ちょっと方向性が変わったところはありますが前田さんはまじめに眼の前の患者さんに向き合っていきます。
また社会人となった前田さんですが、高校を卒業して様々な意味で行動半径が広がった専門学校生時代から、鹿児島ユナイテッドFCにハマっていったのです。
はじめてのユナイテッドは滝行
昔からサッカーを観ること自体は好きだったという前田さん。
特にこの時期は鹿児島でプロ生活をはじめた藤本憲明選手(現いわてグルージャ盛岡)をはじめイニエスタ選手が活躍していたヴィッセル神戸の試合を中心に観ていて、その藤本選手のプロ原点であり自身にとっても地元である鹿児島ユナイテッドFCの試合を観てみよう…と、はじめて鴨池まで足を運んだのが3年前のことでした。
2022年6月5日のアスルクラロ沼津戦。
初出に近い形で「集団滝行」という言葉が登場したほどの大雨が降り注いだ一戦が、前田さんのスタジアムデビューでした。
「この試合です」とスペシャルマッチスポンサーの鹿児島トヨペットが配布したピンバッジのノベルティを前田さんは見せてくれした。

有田光希選手(現ラインメール青森FC)が強烈なミドルシュートを決めて、今も青森でチームメイトの中原秀人選手の持ちネタ「ボディビルダーちゃいまんねん」を披露してまわりから「お前のネタじゃないだろ」と総ツッコミを受けているのがこの写真です。
試合そのものは1-0で勝利しましたが、前述の通りで、昼間なのに照明が点灯するほどの悪天候で、はじめてがこれでは「もう行きたくない」となるのではないか不安になりますが…
「もう鮮明に覚えています。はじめて生でユナイテッドを観ましたけど、スポーツ観戦自体もほとんどはじめてだったので、それまでは画面越しで観ていたのが実際に生で観て、やっぱり臨場感があって」
「生」の魅力を知った前田さんはスタジアムでユナイテッドを応援するようになっていきました。

翌年からU-23シーズンパスを購入。
川内駅から鹿児島中央駅へ、そしてスタジアムまでバスで。
友だちと現地集合することもあるけれど、1人の時も多くて。
どこで応援していたのでしょう?
「もう90分跳び続けていましたね」
それはサポーター団体の周辺で、立ち見席で?ということでしょうか?
「はい、友だちと。いや、あの頃も楽しかったですよ、やっぱり。応援に夢中になって、あんまり試合内容とか覚えてないくらい」
AEDボランティアという現在地からは想定外に、サポーターとして一気にユナイテッドのある生活を堪能している前田さん。
2023シーズンにはヴィッセル神戸時代から応援していた藤本選手が鹿児島に「帰還」したことも当然影響したでしょうが、ユナイテッドそのものの魅力も大きな要因でした。

「一体感がより感じられるんですよね。みんなで声を出して、跳んで、タオルを振って」
言葉数は多くありませんが、だからこそ前田さんの言葉ひとつひとつには聞く方に迫真性があります。
このシーズンにJ2昇格を果たし、変わることなく仕事の都合をつけながら薩摩川内市からスタジアムへ通い続けていた前田さんでしたが…立ち位置は大きく変わりました。
AEDボランティア
「たまたま職場の先輩に“明日ユナイテッド観に行くんですよ”って言ったら、“そういうボランティアをしている人と知り合いだよ”って言われて」
身の回りの人たちに「ユナイテッド布教」に励んでいた前田さんに、意外な出会いが提示されました。
スタジアムにも当然AEDは備えてありますが、ホームゲーム当日はクラブ側でも用意して、AEDを使える方々が巡回するようにもしています。
この巡回は基本的に医療従事者の方々がボランティアで担ってくださっています。
それなりに大きくて重いAEDのほかに、救急セットが入ったリュックを背負い、何かあったらすぐに現場に駆けつけて対応されているのです。
幸い鹿児島でAEDを使うような事態はまだ訪れていませんが、いつどこで必要になるか分からないことをサッカー界は元日本代表DF松田直樹さんから学んでいます。
暑い日々が続く夏場は特に、気分がすぐれない観客へのサポートが必要になるタイミングは突然のことで、冒頭ご紹介したように鹿児島のゴールシーンを見逃すこともしょっちゅうです。
もちろん前田さんの場合はサポーターとしてバックスタンド北側のエリアで跳びはねて応援することもできなくなることは分かりきっていることですが、それでもなぜこのボランティアをすることにしたのかが気になるところです。
前田さんはひとつひとつ確かめるように言葉をつむぎます。
「自分の知識とかでチームに貢献したいというか。
知識というとあれですけど、仕事に関係することで、なにか力になれないかなっていうのを思っていて、それでやってみようと。
これも最初はそんな軽い感じで、こんなに毎回行くようになるとは思っていなかったです」

昨シーズンまでであれば藤本選手たちが、今シーズンであれば河村選手たちがオフサイドラインをかいくぐるべく虎視眈々と目を光らせているピッチ上に、少しは視線を送りつつも、前田さんは主にバックスタンドの観客席をあちこち見回して気分が悪そうにしている人がいないか気にかけ、無線や警備員や観客からの呼び出しがあればすぐに現場にかけつけます。
サポーターとはかなり異なるスタジアムでの在り方ですが、今、観客席で応援しているサポーターの姿を見てどのようなことを思うのでしょうか?
「もうこれが本当に、選手入場のチャントとか聞く時に毎試合泣きそうになるんですよ。すごいなんというかウルっとくるというか。それこそ一体感というか、鹿児島県民が一体になってひとつのチームを応援するすばらしさというか」
毎試合、薩摩川内市から通ってらっしゃる前田さんの言葉には重みがあります。
そうして救護班の一員として、特にこの時期は熱中症や脱水症状になる観客がいると、医師看護師に来てもらうレベルかどうかを判断して、そこまで至らない場合はコンコースや階段のところでゆっくり回復してもらっています。
ところで前田さんの本業は理学療法士であり、同じ医療関係とは言っても気分がすぐれない方への対応は専門外なところではあります。
「はい、ほぼほぼ習っていないことだし、仕事でも診ることがないことなので、本当に毎試合、力不足を痛感しています。だから今年になって研修会が2回ありましたけど、本当に勉強になっています」
理学療法士のできる範囲内でやります、と留まることもできるはずですが、前田さんは1人の医療関係者として向学心とともに鹿児島ユナイテッドFCに向き合ってくれています。

ちなみにスタジアムで脱水症状になる方の大半はお酒の影響だそうですが、前田さんは「好きな方は多いと思うので」と微笑みました。
前田さんご自身はお酒を飲むことはなく、この取材中も2リットルのペットボトルに入った水を飲みながらですが。
本業の理学療法士
先ほども少しだけふれましたが、前田さんは脳神経外科センターでリハビリを担当する理学療法士です。
朝の8時半から夕方の5時半までが勤務で、土日関係なくのシフト制です。
脳梗塞や脳卒中などを発症してから2~3週間の「急性期」と呼ばれる患者さんが就職して最初の担当でした。
「一日中寝たきりの時間が長引くほど筋力や身体の使い方が落ちていくので、少しでも早く身体を起こして、ADLという日常生活の能力を上げていかなければなりません」
無理のない範囲で身体を動かしていくことによって、少しでも脳と手足の先までの神経のつながりが発症前と変わらないレベルまで近づくようにサポートをする仕事です。
そして今年からは急性期から回復期の担当に変わりました。
これはある程度、身体の機能が回復してきて、自宅や施設などもともと住んでいた場所に帰っても生活できるだけの身体能力を取り戻してもらう段階になります。
「理学療法士として一番こだわりたいのは歩行の部分です。やはり脳卒中になった人は麻痺が出たりするので、下肢装具とかを使って正常な歩行に近づくためのリハビリをしていくんです」

そこにこだわる、ということは裏を返せば歩くところで後遺症が残ってしまう方もいらっしゃるということでもあります。
退院と帰宅の前段階でもこのような状況なのですから、急性期に直面する現実は…
前田さんは言葉にしませんでしたが、急性期の中には、命はつながっているけれど、意識は戻らないままという方も含まれます。
当然患者自身で身体を動かすことはできないので、理学療法士が手足を動かして刺激して、なんとか意識が戻るきっかけになるようにリハビリをする、ということも含まれます。
家族がなかば諦めるような状況にあっても、前田さんたちは「僕たちは戻らないとは思っていないですけどね。戻そう…戻そうというか、少しでも良くしようという想いです」とまっすぐに眼の前の現実に向き合っています。
「やっぱり色々考えますよね。家族のことを考えちゃいますよね」
救命救急の世界はよくドラマや映画の題材になっていますが、前田さんの領域はまた違う意味でシビアな重みがあります。
それにしても、話をうかがっていると急性期のほうこそ、ある程度の経験を積んだ熟練の理学療法士を配するべきで、新人はまず回復期の方と接しながら学んでいくべきだと素人には思えますが…
その疑問を投げかけると、前田さんは苦笑いされました。
人材育成や適正、業務内容など外からはうかがいしれない事情を総合的に判断していることでしょうし、前田さんは自分に求められたことに力を尽くすばかりです。
今もサポーター目線。本義的な意味で
昨シーズンの途中からAEDボランティアをするようになった前田さん。
担当した試合はすでに20試合を超えていて、今シーズンも残り試合を皆勤する気いっぱいの熱烈ぶりです。
とはいえ、もともとのサポーターとして応援する気持ちは今も変わることがありません。
印象的な試合をたずねると、4月末に行われたテゲバジャーロ宮崎とのアウェイゲームを挙げてくれました。
「近藤(慶一)選手のオーバーヘッド、これもゴール裏で見ていたので。
近藤選手が観客席に抱きつきに来てたすぐ斜め後ろぐらいにいたので。
もう感極まりましたね」
こうなるとやっぱりもう完全にサポーターです。
「ダントツなのは(7/21)のFC大阪戦」
試合終了間際のラストワンプレーでアンジェロッティ選手が左足で冷静に蹴り込んだ決勝点… 幸いなことに前田さんもこのゴールは観ることができました!
「本当にもう完全にサポーター目線になっちゃうんですけど、あの試合に負けていたら今の立ち位置、順位とかないと思いますし、アウェイで完敗していて、負けられないし、本当に大事な一戦だったので」

もちろん気分のすぐれない方がいらしたら、眼の前の方に完全集中です。
「やりがいというか…鹿児島のホームゲームで重大な事象をおこしてはいけないっていう責任感ですよね。それはもう毎試合ごとに責任感が増していきます」
同時に「この記事を読んだ人の中から1人でもAEDボランティアに興味を持ってくれる人がいてくれたら…」という願いもあります。
もう少しサポーターとしての前田さんに話をうかがってみようと思い、昨シーズンで契約満了で退団した藤本選手についてはどのようなことを思ったのか聞いてみると「悲しかったです」と即答。

「今の鹿児島のサッカーにも合うんじゃないかって思っていて、しかも今JFLで得点王じゃないですか。だから期待しているんですよ笑」
完全に推し選手を推し続けるサポーターの見解ですが、もちろん今の鹿児島ユナイテッドFCへの想いが弱くなることはありません。
「藤本選手は好きな選手ですけど、もうずっとチーム推しというか、特定の個人というよりはチームを応援していましたので、そんなに変わらなかったですね」
それでは今、お気に入りの選手はいるのでしょうか?
「今は青木(義孝)選手やブラジル人トリオ(ジョアオ、アンジェロッティ、ヘナン)です」
藤本選手とは「活躍している」以外の共通項が見つけづらい面々でした笑
「青木選手はあのインターセプトとか正確なクロスが好きで。
それでブラジル人トリオですけど、もともと外国籍選手を好きになりやすくて。
なんか異国の地でプレーしてくれるだけでもありがたくて好きなんです」

医療従事者のボランティアとしてホームゲームを支えてくださっている前田さんですが、やはりサポーターとしての心は強く熱く脈打っていました。
「上位との差を埋めるためにはもう本当にここから負けられないじゃないですか。
連勝を重ねていって、自動昇格圏に入っていって、最終的には優勝してJ2昇格することしか考えていません。
鹿児島県全体から応援されるチームになっていって欲しいですし、今年必ずJ2に昇格して、定着して、そしてJ1に、ですね。
もう本当に根本はサポーターですから」
これだけのサポーターとしての想いがありながら、まさにサポーターの原点とも言うべき「支える心」とともにAEDボランティアをしてくださっていることに頭が上がりません。
「なんででしょうね?」と前田さんも笑っています。
「やっぱり色々と勉強になるんですよね。個人としても成長したいっていうのもあるし、理学療法士というより医療に携わる人間的な意味で」
もともとはスポーツが理学療法士への入口でしたが、今は脳神経外科センターの現場で担っている仕事を「進鹿」させようと意欲的です。
試合はたくさんの方々のたくさんの想いで成り立っています。
選手や監督は華であり光が当たる最たるところでありますが、スポンサー、サポーター、その他たくさんの関係者たちがいらっしゃいます。
そのなかで医療関係の皆さまは稼働することがないのが最善の立ち位置ですが、なにかあった時にすぐに処置してくださるという安心感があるスタジアムづくりに欠かすことができない存在であり、今回、その一員である前田さんを通してその想いにふれることができました。
「本当に僕で大丈夫ですか?(ネタとして)弱すぎないですか?」
前田さんは話の冒頭から最後まで何度も気にされていましたが…
絶対、大丈夫です!
絶対にその価値は鹿児島のサポーターに伝わっています!
