【5月22日マッチデープログラム番外編】 KUFC MATCHDAY PROGRAM 2022 vol.05.5
鹿児島ユナイテッドFCのマッチデープログラム電子版。
今回は5月22日に行われる天皇杯JFA全日本サッカー選手権大会1回戦、鹿児島ユナイテッドFC vs ギラヴァンツ北九州のマッチデープログラム番外編をお届けします。
監督・選手インタビュー
大嶽直人 監督(5月18日の共同記者会見にて)
今日はトレーニング前にJA(グループ鹿児島)様からお米やお肉をいただいて、選手たちも喜んでいます。
本当に色々な支えがあって助かっていますし、本当に感謝しています。
練習の方もしっかりといい雰囲気で、選手もしっかり走ってできました。
試合に向けてはまた新しい選手が出てくるのかなというところと、チーム内で競争意識が出てくるのかがポイントです。
皆さまにいいプレーがお見せできるようにがんばります。
今治戦で終盤2トップにしたことについて
押し込まれる時間もある中で1トップ気味だと追えない部分もあるので2トップにしたり、サイドでプレッシャーがかからなければ左右の位置を変えたり、選手自体を変えることもあります。
そこをできるだけ柔軟にできるのと、選手たちが修正できる力をつけていければと思います。
そこで選手たちがつないだ次に出てきた選手が、いい緊張感とプレッシャーでプレーできたのは我々にとって大きな成長で、自信につながります。
逆にチームが強いメンタリティーを持って戦えたことは素晴らしいと思いますし、意識も高くなっている、その雰囲気を作り出せていることは選手に対して評価しています。
それが最後の最後まで、クリーンシートで終われた理由だと思います。
天皇杯に向けたメンバー構成について
色々な意味でシーズン長い中で選手がどう変わるのか、どこで出場停止になるのか、いざ何かが起きても、すぐ対応できることが大事です。
夏場になってきて、体力的にも落ちてきた時にどのタイミングで変えられるか、その前にどのようなことができるかを試したいところです。
(県選手権決勝に比べると変更は)数少ないポジションの予定ですが、そこでしっかりできるかは一番のポイントなので、見極めができます。
そこに対して今回北九州戦でしっかりと入っていければと思います。
同じJ3の北九州との対戦について
流れはリーグといっしょの1週間の試合です。
選手起用はこれからのタイミングで出てくるので、そのタイミングの速さ、先発を入れ替えたりとかは出てくると思います。
連戦で疲労もあった中で、我々のパフォーマンスの質量が落ちないように、しっかりと次につなぐことができれば、ひとつ乗り越えていける大きなポイントだと思います。
そこでいいチャンスかなと思いますので、チャレンジしたいです。
福田望久斗 選手(5月18日の共同記者会見にて)
この間の試合を終えて、チームとして1位で非常に雰囲気のいい感じで練習に励めています。
今日はみんな集中して取り組めていて、試合を想定した攻撃の仕方をしっかりできました。
次の試合ですが、チームとしても個人としてもチャンスをものにしたいと思います。
5月8日の天皇県予選で感じたこと
初スタメンだったので、チームとしても個人としてもすごい気合を入れて挑んだのですが、厳しい試合になりました。
自分としても結果を出せなかったので、悔しさが残りました。
これから高めていきたい部分
リーグ戦も何回か途中出場させてもらっている中で、自分の特徴が試合で活かせていません。
縦へのスピードや結果につながるプレーをあまり出せていないので、そこはもう少し求めていかないといけません。
前線の選手として得点することは、常に考えながらプレーしています。
北九州戦に向けて
個人としては試合に出てしっかり得点、初ゴールを意識してプレーしたいです。
チームとしてはもちろん勝ちにこだわって、内容としても結果としても圧倒的できるようにチーム一丸となってがんばりたいです。
圓道将良 選手(5月18日の共同記者会見にて)
今日の練習はオフ明け初日で、身体が重い部分もありましたが、自分の中でコンディションが良かったです。
攻守に分かれた練習もありましたが、コンディションがいいと思っている分、いいプレーができたと思います。
今週は天皇杯1回戦ですが、リーグ戦も絡んできて総力戦になるので、自分もチャンスが来たらいつでもプレーできる準備をしていきたいです。
途中出場となったFC今治戦について
1-0で勝っているシーンだったので、追加点はもちろんですが、トップ下ではなく左サイドハーフで出場したので、守備という部分を第一に考えていました。
もっと攻撃に絡めればよかったのですが、状況的に押し込まれる場面が多かったので、守備という部分では少しは貢献できたかなと思います。
トップ下とサイドでの違い
サイドはほとんどやってこなかったというわけでもないので、自分の中では左サイドでもやれる準備はしていましたし、そこでも対応していきたいです。
9試合中6試合に出場して感じること
徐々に試合とかには慣れてきています。
ただ結果という形で残せていないので、スタメンに使ってもらえるくらい、毎回毎回結果を出せたらいいと思っています。
現状に満足はしていません。
天皇杯に向けて
今回同じJ3の相手ですが、勝つにつれて相手のレベルも上がってきて、自分のプレーを見せられる幅も広がっていくと思います。
勝つことが優先ですが、個人としてももっと活躍できたらと思っています。
前回までの振り返りコラム(5/5富山戦、5/15今治戦)
~苦しいときこそOne Teamで乗り越える~
前節、雨中のアウェイ長野でシーズン初めての敗戦を喫した鹿児島ユナイテッドFC。
前半8分で交代した左サイドバック薩川淳貴は次出られるのか分からない、退場処分となったロメロ フランクは出場停止、それ以外にも出られない選手がいるかもしれない。
多くの不安を抱えながら迎えた5月5日のホーム、カターレ富山戦だったが、場外ではこどもの日ということで多くの家族連れがおとずれ、グッズ販売所に長蛇の列ができて、子どもたちにお菓子がふるまわれ、薩摩剣士隼人とゆないくーの登場にステージが多くの人が集まり、いつものように飲食ブースはどこの店舗も大盛況。
サポーターは「ここで簡単に連敗して失速するようなチームではない」という信頼感とともに、声が出せない中でも大音量でチームを鼓舞する。
鹿児島は最初から勢いを持って試合に入った。
10分、高い位置でこぼれたボールを五領淳樹が拾って、左サイドで今季初出場となる砂森和也へ展開。砂森が素早くゴール前に入れたボールに、中盤の底からゴール前に入り込んだ中原秀人が合わせるが、オフサイドの判定でゴールはならず。中原は苦笑する。
23分、連勝して勢いのある富山が遠目からミドルシュートを打つが、GK白坂楓馬が片手で防ぐ。
26分にも守備陣の裏を取られる場面を作られる。
それでも全体的に主導権を握っていたのは鹿児島だった。
「しっかり選手たちが長野戦の後に備えて、しっかり入っていく集中力と気持ちとトレーニングとがマッチできたと思います。富山戦に対して準備すること、次をホームで戦える勇気が非常に今日のゲームに出ました。そこで選手たちの素晴らしいプレーと、誰が入っても同じプレーができる強みが出ました(大嶽直人監督)」
35分、相手のパスをさらった中原が右サイドの五領淳樹へ展開し、五領はゴール前の有田光希へ浮かせたパスを出す。
ロメロの代わりにトップ下で初先発していた圓道将良の位置を確認した有田はそこへパス。
圓道が打ったシュートが富山ディフェンスに当たり、有田の前にこぼれる。
前にはGKだけ。
有田は右のアウトサイドでそのままシュートし、先制点が決まる。
「ボールをトラップしたときにマサ(圓道将良)が見えたので、本当はマサに打って欲しかったのですが、2人でタイミングが合いませんでした。それでもボールがうまくこぼれてきたのですが、GKと目が合いそうな感じがしたので、タイミングを外そうと思ってアウトサイドで蹴りました(有田光希)」
ゴール裏のカメラに向かった有田は「こどもの日だったから」とそれらしいポーズを決めようとして、結局迷って変わったポーズをとる。
その後も鹿児島が攻め続ける。
42分、左サイドから岡本將成が前節に続いて右サイドバックで先発した渡邉へ浮かせたパスを出すと、渡邉は「ワンタッチ」と前方から声をかけた五領へ。
内側に入りながら五領はボールを右外へ流して渡邉を加速させる。
中をしっかりうかがった渡邉がゴール前に入れたクロスを、逆サイドから入ってきた米澤がボレー。
弾かれたところをもう一度米澤自身がボレーで叩き込んで追加点を決める。
バックスタンド側でゴールを決めた米澤を中心に歓喜の輪ができて、メインスタンド側ではゴールに結びつくクロスを上げた渡邉も両拳を握って天を仰ぎ、五領が祝福する。
「クロスの練習は毎日のようにやってきたので、それがひとつ結果につながって嬉しく思います。また左サイドからうまく崩してくれて、右サイドでフリーでボールを受けられる状況を作ってくれたので、それは仲間に感謝したいです。みんなベテランの選手たちとか同サイドの選手たちが良いサポートをしてくれているので、自分はやりやすくプレーできています。(渡邉英祐)」
2-0のリードで折り返した後半も、鹿児島が局面局面で優位に立つ。
「セカンドボールの意識は、毎試合意識はしているのですが、足りないところがありました。今日は(ロメロ)フランクくんがいなかったので、落ち着かせるところ背負えるところがひとつ少ない中で、うまく相手のプレッシャーがかからないところでボールをキープできたのが、セカンドボールを拾えたところにつながったと思います(有田光希)」
56分、圓道から右サイドの五領へ、さらに右外を走る渡邉へスルーパスが出る。
渡邉が入れたボールを有田が軽く背後の空いた空間にボールを流す。
一気にゴール前に走り込んできた中原が落ち着いて決めて3-0。
リードを広げた鹿児島は福田望久斗、山本駿亮、野嶽寛也、さらに負傷からの復帰となる木出雄斗、今季初出場となる八反田康平をベンチから送り出す。
「変えた理由として我々のストロングである攻撃を重視しているので、バランスを取って守るよりも、もう1回相手陣内に押し込むことをしました。その狙いに対してベンチに適したプレーヤーがいたので、それを活かして、我々は前向きでできるだけゴールに迫力を持っていくプレーをすることが、鹿児島のプレースタイルなので、そこに表現できて、そこにスイッチが入ったのが良かったと思います(大嶽直人監督)」
その中でも今シーズンまだゴールのない山本は「まずゲームを壊さないように入ること、守備から入ること、自分の役割をまっとうすることを優先して」試合に入っていた。
もちろん「自分も点を取りに行く」という気持ちを加えて。
84分、右サイドで作ってペナルティエリア付近で圓道が受けたボールがこぼれたところを、野嶽が猛ダッシュで奪い返し、ボールを受けた山本が左足でファーサイドを狙うがわずかに外れ、グラウンドに倒れる。
87分、富山陣内でこぼれたボールを、中原が軽く浮かせて相手守備をかわし、ゴール前へスルーパス、富山守備陣のスキを突いた山本が冷静に左足で流し込む。
「まず試合前に有田選手と、相手の3バックの脇が空くという話をしていて、前半終わって今日も空いているという話がありました。あの場面で(中原)秀人さんが持った時に絶対に出してくれると思っていたので、あえて待ちながらタイミングをうかがい準備していました(山本駿亮)」
4点目ではなく、この時間帯についに先制点が決まったかのように、選手たちもスタンドのファンも大歓喜する。
誰もが待ち望んでいた山本の今シーズン初ゴールだった。
90分、守備ラインに乱れが生じたところをロングパスを受けた富山FW川西が合わせて4-1。
そして試合終了。
最後に失点はしたが、そこを含めて大嶽監督は前向きだった。
「ゼロで終わりたかったですが、これもまた自分たちのひとつ課題になりますし、勝っても次の準備と、やっぱり我々もこれから成長するという意味では非常にいいゲームだったと思います。そういう課題を見直せる意味で、もう一度立ち位置を確認できることは大きいですし、今後大きなポイントになっていくと思いますので、そこは締めていきたいです」
苦しい状況を乗り切ったチーム内外の士気は最高に盛り上がった。
富山とのホーム戦の3日後、鹿児島県選手権決勝で鹿屋体育大との激闘に勝利し、ゴールデンウィークの連戦を終えた翌週、5月15日はアウェイに乗り込んでのFC今治戦を迎える。
今治はここまでの8試合で6失点、直近4試合無失点とチーム全体が連動した堅守が特徴となる。
スタメンには前節を欠場していた薩川が左サイドバックで先発して、開始早々から積極的に前へと攻め寄せ、3分にはセットプレーのこぼれ球を拾ってミドルシュートを放つ。
「チームスタッフ、トレーナー、ドクター、フィジカルコーチが最大限のことをしてくれたことで、ピッチに立つことができました。気持ちで行けるだけ行こうと試合に入りました(薩川淳貴)」
4分、鹿児島の右サイドを突破され、ゴール前に入ったボールを押し込まれるがオフサイドの判定でノーゴール。
逆に12分、今治のパス回しを狙った有田がボールをさらい、左サイドを走る米澤へ。米澤は得意の中央に切り込むドリブルからシュートを打つが、今治DFにコースを変えられる。
14分、セットプレーのこぼれ球を拾った渡邉が再び今治ゴール前に送り、広瀬が落としたところをロメロが受けて打ったシュートもわずかに外れる。
37分、最終ラインまで下がってきた木村祐志を含めたパス回しから左の薩川がゴール前に早めのクロスボールを入れて、有田が落としたところに走り込んだロメロが胸トラップから1対1を迎えるが、決まらない。
鹿児島がチャンスを作るが、今治もしっかりと鹿児島の攻撃に対応し、緊迫した展開が続く。
58分、鹿児島陣内のこぼれ球からペナルティエリア内でシュートまで持ち込まれるが、追走した広瀬がタックルで防ぎ、拳を握る。
「苦しい場面もありましたが、ああいうゴール前での身体を張った守備は普段の練習からやっています。この苦しい時間帯を耐えたら絶対チャンスが来ると認識していました(広瀬健太)」
薩川たちも含めたチーム全体で今治に自由にやらせない。
「一番は守備の選手なので、球際やボールを奪うところ、そしてゴールを守ること、その失点を防ぐために一個前で自分が潰すことは意識しています(薩川淳貴)」
そして61分、木村のコーナーキック。
ニアサイドの有田が頭で後方へそらし、広瀬が足を伸ばして押し込む。
スタンドが静かになり、鹿児島サポーターのいるエリアだけがにぎわい、有田と米澤がまっさきにサポーターのもとへを駆け寄り、広瀬を迎え入れて祝福する。
「相手に大きい選手がいるので、ニアに入れて後ろにそらせて、それが直接入ってもいいし、後ろの選手が詰めてもいいと話をしていて、その形が出せました。あれは良いところにボールが来たので半分有田選手のゴールです、、、調子に乗るからあまり言わないでおきましょう笑(広瀬健太)」
今治は攻勢を強める。
67分、左サイドを突破され、角度のないところからシュートを打たれるが、GK白坂がさわり、ポストに弾かれる。
75分、右サイドからのクロスに頭で合わされるが、適切にポジションを取っていた白坂が弾き出す。
今治に押し込まれても鹿児島はしっかりと中を固めてゴールは許さない。
「やっぱり最後、後半攻め込まれる時間帯は増えていましたが、今年の鹿児島は最後の最後まで粘り強く守れること、攻撃もハードワークできることが強みです。そこが顕在していたし、勝因だと思います(薩川淳貴)」
鹿児島は途中出場の選手も含めて全員で集中を保ち、1-0で、無失点で勝利した。
試合後はホーム戦での勝利時のおなじみになっている「祝杯はさつま島美人で」の乾杯ポーズを有田が主導して行い、今治まで足を運んだサポーターも含めて勝利を喜びあった。
記者会見場に姿を表した大嶽監督も、選手だけでなくファンサポーターも含めての勝利であることを強調した。
「非常に熱いゲームができたのが良かったです。皆さんに非常にいいプレーを見せられたことがまずひとつと、遠くからファンサポーターが応援に来てくれて、その熱意が選手に伝わって、しっかりと自分たちがやるべきことをできたことが素晴らしいと思います」
勝利を喜びつつ、みずからゴールを決めたキャプテンに浮かれる様子はない。
「やっぱりもうちょっと(クリーンシートの試合が)あってもいいかなと思います。富山戦でも4-0になって、そこで1点やられるのは僕らの甘さです。まだまだ細かいところで、相手の精度に助けられている部分があります。そこの細かい部分のところで突き詰めていきたいです」
目の前のOne Gameに向き合うのも選手、スタッフ、サポーターがOne Teamで。
日々のトレーニングも、試合に出ていない選手も含めてOne Teamで。
今週はリーグ戦はお休みで、天皇杯の1回戦が行われる。
同じJ3リーグのギラヴァンツ北九州と、鴨池で対戦する。
リーグ戦とは直接関係のない試合だが、大切な公式戦に向けて今週も鹿児島はOne TeamでOne Gameを戦う。
コラムOneTeam,OneGame vol.01:「敵」としてユナイテッドと向き合った或るユナキャストの一日(5月8日KFA第37回サッカー選手権大会決勝)
東京で小中高校とサッカーに打ち込んできたけど、高校では1回戦敗退するレベルで不完全燃焼だったという塩塚祐太さん。
大学ではもっと高いレベルでサッカーを続けるため、2019年、一浪した上で国立の鹿屋体育大学に入学しました。
鹿屋体育大学は、九州大学リーグ1部を戦いインカレや総理大臣杯を目指すチームを1軍に、九州社会人リーグに所属するNIFS1stが実質的な2軍、鹿児島県社会人リーグに所属するNIFS2ndが実質的な3軍という構成になっています。
塩塚さんがプレーすることになったのはNIFS2nd。
後列左端が塩塚祐太さん
そこでもプレー機会はなかなか得られず、本職のGKではなくセンターバックへのコンバートも経験しました。
しかし、もともと浪人していた頃に選手以外のことにも思いを巡らせていた塩塚さんは、心折れることなくプレーに向き合いつつも、違う世界を模索していきます。
塩塚さんがある日学内の掲示板で見つけたのが、J2を舞台に戦う鹿児島ユナイテッドFCのホームゲーム運営をお手伝いするボランティア「ユナキャスト」募集のチラシ。
興味を抱いた塩塚さんがチラシに書いてあったユナキャストのリーダーの番号にかけて、鹿屋体育大学サッカー部員であることを伝えると、、、
「ぼく、そこで働いているんだけど」
ユナキャストリーダーとは、鹿屋体育大学で職員として働く、今では「ピンクのイナさん」と名乗る稲森さんでした。
こうして塩塚さんは週末の都合が合う時は鹿屋から垂水経由で足を運ぶ鴨池でユナキャストとして、ホームゲーム運営をお手伝いするようになりました。
ここからはユナイテッド界隈にとっては他人行儀な「塩塚さん」から「塩塚くん」と呼んだほうがしっくり来る関係になります。
USM会員のお相手をしたり、すべての来場者が通過するゲート運用を担ったりして、ホームゲームが試合開始まで期待に満ちた空気感に身を置き、試合が始まっても試合会場の外で、試合を観ることなくホームゲームを運営する塩塚くん。
スタンドから歓声や拍手や鳴り物の音が響くことで、鹿児島のゴールが決まったことを把握して、かすかに見える電光掲示板のリプレーで誰がどのようにゴールを決めたのかを知る。
あるいは一瞬だけスマホでDAZNを見て、どのようなゴールだったのかを確認する。
そしてユナキャスト同士でよろこびを分かち合う。
勝った試合の後には、来場者とも喜びを分かち合える。
そつなくテキパキと業務を行ってくれる塩塚くんはクラブ職員にとっても頼もしい存在であり、時にはホームゲーム以外のお手伝いをすることもありました。
選手としてはNIFS2ndでの日々が続いていましたが、塩塚くんは充実した大学生活を送っていました。
その日々に大きな変化が生じたのが、4年生が引退して最上級生になった今年のはじめのこと。
トップチーム、NIFS1st、NIFS2ndと編成をするなかで、塩塚くんは飛び級でトップチームに入ることになったのです。
「サッカー以外のところが評価されたみたいですけど」と塩塚くんは苦笑いしますが、サッカーの実力が伴っていなければ実現しないことです。
これまで試合に出ていたメンバーの負傷などもあり、九州大学リーグでのデビューも経て、そして迎えた5月8日。
KFA第37回サッカー選手権大会決勝。
対戦相手はスーパーシードとして決勝に登場する、鹿児島のJリーグクラブ、鹿児島ユナイテッドFC。
普段は様々な形で連携し、交流している鹿屋体育大学とユナイテッドが、年に1回だけ敵味方に分かれる試合に向けて、塩塚くんはベンチ入りメンバーに選ばれました。
Jリーグにおけるユナイテッドの対戦相手と同じように南側からバスで鴨池公園に入り、バスを降りて、メインスタンド観客席の軒下を通って北側にあるロッカールームへ向かう。
普段のホームゲームとは違う会場入りに違和感を覚える。
いつも「仲間」としてユナイテッドのホームゲームを運営している徳重剛クラブ代表たちクラブ職員と「敵」としてあいさつをかわし、「今日はこっち側じゃないんだね」と愛情の込められた冗談が投げかけられる。
鹿屋体育大学からユナイテッドに転身した甲斐智大スポーツサイエンティストとも同じようにあいさつをかわす。
アップのためにピッチに入り、スタンドを見上げると「KIZUNA TSUMIGI」のシャツを着たサポーターたちに親しみを覚え、まるでホームのように感じてしまう。
「何とも言えない感覚でしたね」
とはいえ1月にキャンプ中のユナイテッドとトレーニングマッチで対戦した時にも徳重代表たちと同じような形で対面していたから「耐性」はできていた。
そして何より、エントリー外としてスタンドで応援するのではなく、ベンチに入るということは、GKとしてユナイテッドのゴールを阻止するためにピッチに立つかもしれないということ。
ユナイテッドを倒すために塩塚くんの意識はゲームに集中していった。
3日前にリーグを戦っていたユナイテッドがメンバーを大幅に入れ替えて臨むことは、鹿屋体育大学側にとっては想定していたことだった。
レベルの高いプロの選手たちとはいえ、試合から離れていて、コンビネーションも整いきっておらず、何より「勝って当然」の重圧がある。
「相手は負けられない環境で、失うものがない自分たちのほうが有利なはず。勢いはいつも以上にありました。それこそ九州大学リーグだと、どちらかといえば自分たちが負けられない側だけど、今回は違う。”食いに行くぞ”という声がミーティングでもかけられていて、いい雰囲気でした」
士気高く臨んだ鹿屋体育大学は前半27分、セットプレーから井原伸太郎に先制点を奪われて前半を終えたが、それでもベンチで観ている塩塚くんは「意外とやれている実感がありました」とチームメイトたちのプレーに手応えを感じていた。
「本当に1点決められてもやれるという感覚はありました。ハーフタイムでもみんな“ここをこうすれば”という話ができていました」
後半、狙い通りの細かいパス交換からサイドへ展開してチャンスをうかがう。
60分、右サイドのクロスを受けた比嘉将貴がゴールを決めて1-1。
同点。
試合の行方がわからなくなってきた中、開始から全力でプレーしてきた鹿屋体育大学の選手たちも徐々に疲労が足に来ていた。
それは極度の集中力を要するGKも同様で、塩塚くんも自分自身が試合に投入される可能性を考えていた。
苦しい中でも自分たちのプレーを続けた鹿屋体育大学は87分、左サイドからのクロスを加藤大晟が合わせ、泉森涼太が守るゴールを破って土壇場で逆転する。
過去5回の対戦で一度も勝てていないユナイテッドに、ついに勝利できるかもしれない。
スタジアム内にただ事ならぬことが起きるかもしれない異様な雰囲気が満ちる。
後半アディショナルタイム、ユナイテッドが鹿屋体育大の陣内でフリーキックのチャンスをつかむ。
「これを止めれば勝てる」
塩塚くんにあったのはチームメイトへの信頼と自信。
しかし。
五領淳樹が左足でゴール前にボールを入れる。
ペナルティエリア内で混戦が生じる。
またも井原のシュートがゴールネットに刺さる光景が、塩塚くんの目に映った。
その瞬間、ホイッスルが高々と鳴り響くのが聴こえた。
偉大なる勝利を告げるはずのホイッスルは、試合がまだ終わらず延長戦に入ることを告げるために鳴り響いていた。
「唖然というか、、、絶望じゃなくて唖然としてしまいました。それでも戻ってきたチームメイトたちに、ベンチからできることとして”まだ終わっていないぞ”という声をかけました。ただ追いつかれた側として精神的にも肉体的にもきつかったです」
延長前半4分、米澤令衣が勝ち越しゴールを決めて3-2。
そしてスコアは動かないまま、延長戦が終わった。
いつも近くにあるユナイテッドに、敗れた。
「自分たちのチームが負けたことが悔しかったし、勝てば次のステージがあるのが閉ざされましたし、ユナイテッドが勝ってうれしい気持ちはゼロでした。でも、一軍になったのも最近ですし、どちらかといえば憧れていた側だったのが、試合に関われるようになってありがたいのひと言です」
そして、あのゴールを振り返る。
「勝利をつかみかけていた中での失点だったので、、、自分が行きたい業界、シナリオのない世界の一部始終を目の当たりにした感じでした。(チームメイトたちが)油断していたわけではないと思います。あれがプロなんだと思います」
本当の本当に紙一重だった勝負に、そうやって塩塚くんは必然性を見出し、結果を受け止めていた。
身内のように感じているユナイテッドを「敵」に回した一日が終わった。
大学4年生になった塩塚くんは、教育実習のために東京に戻ったり、卒論が待ち構えていたり、就職活動の準備も怠ることができず、もちろん普段の大学の授業にも出席して、と多忙な生活を送っています。
さらに嬉しいことに4年生になってから一軍の試合に絡めるようになり、週末はさらに過密になりました。
卒業までの残された時間でどれだけユナキャストとしてユナイテッドのホームゲームに関われるかも不透明な状況ですが、塩塚くんはまだまだ鹿児島でやりたいことがいっぱいあります。
鹿児島県内各地、特に離島に足を運びたい。
集客をテーマにした卒論を書きたいし、そのために調査研究を深めたい。
そして今年のインカレは首都圏で行われるから、そこでメンバーに入って試合に出場したい、なかなか芽が出ない中でも息子を応援して一軍に入った時には塩塚くん自身には想像もできなかったくらい喜んでくれた東京の両親に、自分がプレーする姿を見せたい。
塩塚くんの「やりたいこと」は尽きることがありません。
とはいえ自身の卒業後の進路については、もちろんスポーツ業界に進みたいけれど、卒業とともに入るよりは、一旦違う世界を見て視野を広げたほうが良いのではないかと冷静に慎重に考えているようです。
どのような進路を選ぶにしても、塩塚くんはこれまで同様、自分の選んだ道を正解にするために前向きに一つ一つ努力を重ねながら進んでいくことでしょう。
そしてたくさんの時間を「一員」として過ごした鹿児島ユナイテッドFCへの愛情や期待も尽きることはありません。
「鹿児島といえばユナイテッドとなって欲しいです。この前のAC長野パルセイロと松本山雅FCのダービーのように、J1、J2、J3とかカテゴリーを問わず県民全員が盛り上がれる、鹿児島県の象徴になれると思うし、なって欲しいです」
これまでもユナイテッドには多くの人たちが関わってくれました。
多くの人たちの情熱と、ひとつひとつの積み重ねで今があります。
塩塚くんの想いもまたユナイテッドに、そして鹿屋体育大学にも受け継がれるはず。
そして鹿児島をスポーツの力で元気にするために、みんなの挑戦は続いていくことでしょう。
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