【11月13日マッチデープログラム】 KUFC MATCHDAY PROGRAM 2022 vol.17
鹿児島ユナイテッドFCのマッチデープログラム電子版。
今回は11月13日に行われる2022明治安田生命J3リーグ第33節、鹿児島ユナイテッドFC vs FC岐阜 のマッチデープログラムです。
日程表・順位表・テキスト速報
前回までの振り返り
10月30日(日)2022明治安田生命J3リーグ第31節
vs 愛媛FC(白波スタジアム)
前節アウェイで福島ユナイテッドFC戦を引き分けた鹿児島は、10月30日愛媛FCとホームで対戦する。
スタンドには今シーズン、そしてコロナ禍で最多となる6,000名をはるかに超えるサポーターが集まり、バックスタンド北端からは大声援で、他のスタンドからは鳴り物や手拍子の大音響で選手たちへの後押しが送られる。
4分、左FKからゴール前へ入ったボールはGK白坂楓馬の右手でコースが変わり、バーにあたって跳ね返る。
ここからは鹿児島が攻め続ける。
「このすごい熱いサポーターが声援をかけてくれて、これだけの人が入ってくれて、我々チームにとってすごい後押しになる試合でした。選手たちは自分たちのサッカーを出せたと思うし、最初からアグレッシブにハードワークして戦って、ファンを魅了するサッカーだったと思います(大嶽直人監督)」
8分、愛媛陣内でのパス回しをさらった有田光希が、そのまま左サイドから中まで入り込んでシュートを打つが、GKに防がれる。
9分、白坂のフィードを受けた木出雄斗が右サイドからドリブルで持ち込み、左足で打ったシュートはポストを直撃する。
23分、左サイドでボールの奪い合いから収めた有田のパスを受けた薩川淳貴が左足で強烈なシュートを打つが手前のサイドネットに刺さる。
41分、愛媛に再三のクロスを挙げられるが、最後は白坂がキャッチ。
多くの試合に出場してきた中原秀人に代わってボランチに入った野嶽寛也もボールに絡んで、攻撃を前へ前へと進める持ち味を発揮する。
「前にボールを運ぶところだったり、前にボールが入った時にいかに絡むかを求められているので、そこの回数は多くできました。得点には結びつきませんでしたが、求められていることは少なからずできました(野嶽寛也)」
愛媛のシュートチャンスもあるが、しっかりと抑えてスコアレスで後半へ。
46分、またも愛媛のパス回しを奪った有田がペナルティエリア内でGKと1対1の局面を迎えるが、シュートは枠を外れるがゴールへの予感が高まる。
「相手によってプレスのかけ方は少し違いはありますが、今日は前線からボールを取ってショートカウンターに行ける場面も作れました。前の試合に比べて自分たちらしさ、ゴールに向かうプレーは出せていましたし、そのなかで決定的な場面も多く作れましたが、決めきれませんでした(木村祐志)」
55分、中盤のボールの奪い合いから打たれたシュートは枠を外れる。
63分、強烈なミドルシュートはコースを読んでいた白坂が弾く。
76分、コーナーキックからヘディングで合わされ、先制点を許す。
「たった1本のセットプレーが世界を変えます。逆に勝敗がある中でサッカーの面白いところであり、それだけでないところもあれば色々ありますけど、勝負の世界なので厳しいと感じました(大嶽直人監督)」
それでも、鹿児島の応援はむしろ力強さを増す。
その熱量を背に途中出場の山本駿亮、端戸仁、福田望久斗、圓道将良たちがどんどん前線へとしかけていく。
82分、スローインから右サイドで端戸がヘディングで落とし、野嶽が入り込み、フリックしたボールを受けた端戸が入れたボールはファーサイドのネットに向かうが、ヘディングでクリアされる。
さらにボールをつなぎ、右サイドから渡邉英祐が入れたクロスを、端戸がニアサイドで合わせるがポストの外側を通り過ぎる。
ゴールキックを奪った福田が、右サイドをドリブルで突破して入れたクロスに端戸が合わせるがGKに遮られる。
87分、右で福田、渡邉をつないで上がったクロスを端戸が合わせるがまたも枠を外れる。
91分、薩川が左サイドを突破して入れたボールを、ゴール正面の福田が合わせるが外れる。
95分、試合終了のホイッスルが鳴る。
昇格に向けて手痛すぎる敗戦。
「これだけのチャンスが来た中でゴールに結び付けられなかったのは不甲斐ないですし、失点の場面も自分の前で触られた失点なので責任を感じています。時の運はあるかもしれませんが、結局最後は自分の技術や今までやってきたことを信じるしかありません。まだ可能性は残っているのでサポーターの皆さんに勝利が届けられるようにやりたいです」
試合後の会見で端戸は絞り出した。
それでもサポーターは激励する。
「残り3試合、上との勝ち点3差なので、諦めないで信じたものだけに奇跡が訪れると思うので、僕たちは目の前の試合を勝ちに行って、その結果、昇格というものがついてくるので後は目の前の試合に集中していきたいです(広瀬健太)」
次戦はJ2昇格に王手をかけた首位いわきFC戦となる。
11月6日(日)2022明治安田生命J3リーグ第32節
vs いわきFC(Jビレッジスタジアム)
11月6日、コンパクトな造りのJビレッジスタジアムには4,000名を超える観客が入ったが、大挙して足を運んだ鹿児島サポーターの応援はむしろ圧倒している。
アウェイながら最高の雰囲気でユナイテッドは試合に入っていった。
4分、右サイドバックの渡邉英祐からロメロ フランクを経由して突破した右ウィングの木出雄斗がゴール前にボールを入れる。
逆サイドから入り込んだ五領淳樹が合わせるが枠を捉えられない。
「立ち上がりに木出(雄斗)のいいクロスから、中の(五領)淳樹さんでしたが、淳樹さんが外したとかではなく、そこに入れているからチャンスは作れています(白坂楓馬)」
そして15分、試合が動く。
右サイドからいわきにつながれ、ゴール前に入ったボールをカバーに入った広瀬健太がクリアするがバーに当たり、そのまま押し込まれて先制を許す。
「分析してもらっていたにもかかわらず立ち上がりのロングスローから先に失点したこと、簡単に入れさせたことが、GKである自分がもっと声をかけるべきでした。せっかく分析してくれたのでチームで集中すべきでした(白坂楓馬)」
「先制点を取れたチャンスで入らず逆に取られて、1点を追うとなると心理的にリスクを冒していかないといけません(大嶽直人監督)」
31分、速攻でセンターバック広瀬と岡本將成の2人と競り合いながらのシュートを白坂が防ぎ、さらにこぼれたボールを続けてシュートされるが、倒れながらも白坂が残した足で防ぐ。
徐々にいわきにペースを握られるが0-1で前半を終える。
「入り自体は良くて前半失点しましたが、後半必ずいけると話をしていました(中原秀人)」
46分、開始直後に右サイドから入ったクロスがこぼれたところを、五領が拾って左足で狙うが枠を外れる。
62分、クリアボールを拾われ、遠目から入ったクロスを、ヘディングで合わされて追加点を許す。
67分、クリアボールからのシュートを防ぎに行った岡本將成の足に当たってコースが代わり、3点目。
「前半はある程度相手のプレスも多かった中で、後半に選手と選手の距離感が広がってしまった部分がありました。そうなるとボールをつなぎにくくなるので、そこを中で修正する声はありましたが、なかなかスムーズになることはなく、そこで相手に追加点を奪われる展開でした(五領淳樹)」
「いわきさんはシンプルですごく僕らの嫌がることをしていました。そのなかで相手にセカンドボールを拾われて一発で裏は徹底されていて嫌でしたので、どうにかセンターバックで対応できればよかったのですが、相手の勢いにやられました(広瀬健太)」
失点後、選手たちは集まって話し合いをする。
「単純に流れもよくありませんでしたし、ばらばらになったらもっと失点すると感じたので、リーグ戦では得失点もあるので、鳥取戦のようになると後に響くのと、自分たちは諦めていないので、次につながるようにやっていきたいと思っていました(木村祐志)」
しかし、ここからはお互いに得点が生まれることはなく0-3で敗戦。
目の前ではいわきFCがJ2昇格を決めた歓喜に包まれている。
「素直に悔しいですし、自分たちがなかなか積み上げてこれなかった部分を、相手は開幕戦の後から非常に積み上げてきた結果が現れたと思います。あと2試合あるので、最近なかなか勝てていないのでしっかりとした戦う姿勢、球際の部分をしっかりと見せなければならないと思います(中原秀人)」
「目の前で優勝を決められる悔しさは忘れてはいけませんし、今後クラブに活かしていかなければなりません。次は今シーズンやってきたサッカーは間違っていなかったことを証明しないといけない試合です。多くのサポーターが来てくれるので、最近勝利届けられていないので勝利を届けたいです。感謝しかないので、結果で恩返しするしかありません(広瀬健太)」
11月13日、2022シーズンのホーム最終戦を迎える。
「攻撃の崩しの部分まではいけているシーンはあります。そこでいかにシュートまでいけるか、終われるかを残り2試合は追求して、シュート数が一番分かりやすく表現できるのでそこは意識したいです。愛媛戦ではシーズン最多で、今度も同じくらいサポーターがいらっしゃると思うので、今度は勝って笑顔でスタジアムをあとにしてもらいたいです。ここまで来たら戦術どうこうではなく勝ちたい気持ちで優れるかで、そこが一番大事です(五領淳樹)」
チーム最古参の五領は気持ちの大切さと、勝敗に直結する要素を強調する。
「やることは変わらないですし、今さら新しいこともできません。1人1人が勝つために苦手なところを消すというより、得意としているところを多く出して、局面局面で負けないとか、そういうところがつながってくると思います。思っていることはそれぞれあってもいいと思います。勝つためにそこがブレなければまとまれると思います。僕ならチームを勝たせるためにゴールを決めるという強い気持ちを持って次の試合に臨みます(有田光希)」
ここまでチーム最多の15ゴールを決めている有田はチームを勝利に導くために、ゴールを決めるという意思を示す。
「ずっとホームアウェイと駆けつけてくれて、共に戦ってくれたファン サポーターの方に感謝しています。最後のホームでどれだけ見せられるか、ONE TEAMで発信できるかです。ファン サポーターが、これから自分たちの進んでいく道を後押ししてくれているので、前進して全力でプレーしたいです(大嶽直人監督)」
監督も、選手も、スタッフも全員の胸にあるのは、応援してくれる人たちへの感謝。
そしてファンサポーターも含めたONE TEAMで、FC岐阜を迎えるONE GAMEへと向かう。
みんなが笑顔になれる未来をつかみ取るために。
コラムONE TEAM,ONE GAME vol.12(最終回)
田上裕がポジティブなのではなく、周囲が、田上裕をネガティブにさせず前を向かせている
2009年末、Jリーグを目指してJFLを戦う沖縄のクラブから、大卒2年目の鹿児島県出身選手が契約満了を告げられました。
小学2年生の時に「Jリーグでプレーするプロサッカー選手になる」という夢を抱き、一般入試で入った鹿児島城西高校は4軍スタートという事実に象徴されるように、決してエリートとは言えない道を這い進んできた男の先は、もう少しのところで閉ざされました。
途方に暮れながらもサッカーを続けようとした男に、そのタイミングで「鹿児島からJリーグ」を目指して立ち上がったクラブから声をかけられます。
2010年3月25日に発足したクラブ、FC KAGOSHIMAの選手兼監督に田上裕は就任して、より強くなった夢を追いかけました。
「鹿児島とともにJリーグの夢をかなえよう」
発足したばかりで整った環境など望めない状況で、田上は監督として選手としてだけでなく、グラウンドの手配、チームバスの運転、道具の準備、さらにチーム周りのことにとどまらず地域イベントの出演交渉や手配、メディアへの売り込み、スポンサー営業とあらゆることに全力で取り組んでいきます。
慣れないパソコンを叩いて1日かけてエクセルの表を作って「今思うと意味あったのかな?」と苦笑いです。
営業先で「そのネクタイの巻き方はなってないよ」と諭され、「教えていただき、ありがとうございます」と頭を下げ、結果的に心を通わせます。
すでに九州リーグからJリーグを目指していたヴォルカ鹿児島を引き合いに出し「なんでそんなチーム作ったの?」と詰問されたり「鹿児島にJリーグなんて無理に決まってるじゃない」と笑われて、悔しい思いをすることも。
身体的にも心理的にもこの1年間を「本当にきつかった。一番きつかった」と振り返ります。
チームメイトには今もJリーグでプレーする内薗大貴選手(現テゲバジャーロ宮崎)たちを擁し、主戦場となる鹿児島県1部リーグは、「勝つのは当然。どのくらい圧倒的に勝てるのか?」という視線を受けながら、1点差勝負もギリギリでものにしながら、7戦全勝を果たします。
九州リーグへの昇格をかけて各県の代表が集う大会では、ここでも「勝って当然」の視線を受けながら戦った準決勝も、決勝も、先制を許す苦しい試合が続きます。
高熱を出していた田上は、そんな状況でも2試合連続2ゴールの活躍で九州リーグ昇格を果たします。
そして徐々にFC KAGOSHIMAも田上裕も、多くのファンサポーターの記憶と重なっていく時代になっていきます。
田上は2014シーズンにヴォルカ鹿児島との統合により発足した鹿児島ユナイテッドFCの初代キャプテンとして、2015年末にJリーグ入りを果たすチームを牽引しました。
特に意識していたことが2つありました。
「みんなが嫌がることを率先してする」
ロッカールームやグラウンドにゴミが落ちていたらみずから拾う。
落としたチームメイトが分かれば本人に伝えて、きちんと拾わせる。
「トレーニングではとにかく声を出す」
前向きな声を、ワンプレーワンプレーに。
特に調子を落としている選手や自信を失っている選手、なかなか試合に絡めない選手がいいプレーをした時に「ナイスパス!」「ナイスタックル!」と鼓舞してチームのひとつにしようと腐心していました。
そんな姿勢からJ2昇格を果たした2018年11月25日、自然な流れでマイクを渡され、あの言葉が生まれたと言えます。
「鹿児島の良さは、チームワークです!」
「鹿児島の良さは、チームワークです!」
「鹿児島の良さは、チームワークです!」
本当に大事なことなので3回言いました。
選手としての田上裕について、イラストレーターのぽたろさんは「後半途中から出てきた時、スタンドがすごく沸きましたよね。あれって選手として積み重ねてきたものがあるからじゃないかって思います」と振り返ります。
地域リーグ時代からの鹿児島のサッカーを気にかけてきたNKカスタマイズの久保社長は、J2時代に福岡戦のピッチに投入されたり、かつてライバルだった赤尾公が栃木戦でゴールを決め田上と抱き合っているシーンに、思わず涙してしまったと振り返りました。
Jリーグ通算44試合出場0得点。
とにかく記憶に残る選手はJ2からJ3に降格した2019年末、現役引退を表明。
引退の挨拶では「選手の皆さん、サポーターを大切にして下さい。人を大切にできるクラブは絶対に強いクラブになります」と涙を流しながら訴え、言い残し、選手生活に別れを告げました。
そして田上裕は、鹿児島ユナイテッドFCの「応援リーダー」に就任します。
一般的には「アンバサダー」と表現されることが多く、親交の深いFC東京の石川直宏さんは「C.R.O(クラブ リレーションズ オフィサー)」という役職ですが、「横文字では子どもや、おじいちゃんおばあちゃんに伝わらない(そして田上らしくない)」ということでベタで分かりやすい日本語を捻り出しました。
選手としてたくさんの応援を受けてきたからこそ、応援を栄養に戦ってこれたからこそ、その感謝の気持ちを胸に、今度は自分が鹿児島を愛する老若男女あらゆる人たちの挑戦を応援していきたい。
離島を含めて鹿児島県内各地をどんどん回っていきたい。
選手たちの魅力もどんどん引き出していきたい。
YouTubeという媒体を活用して、鹿児島とユナイテッドFCを日本中に世界に発信していきたい。
サッカー選手としての役割を終えても、次なる道への希望に満ちていました。
しかし。
2020年、世界はコロナ禍に見舞われます。
その影響はここで語るまでもありませんが、応援リーダーの活動にも大きく影響しました。
学校での講演や運動教室、地域行事への参加などのホームタウン活動は大幅に縮小して、気軽に外出することもできず、Jリーグも開催されません。
そんななかで応援リーダーが取り組み始めたのはYouTubeの動画編集でした。
最初はスマートフォンを駆使して、小さい画面に向かって映像に文字や音楽を入れていました。
トレーニング後の選手たちに協力してもらってキック対決を撮ったり、当時流行した宿題リフティングを撮らせてもらったり。
どこに正解があるのか?
今ひとつ答えが見えないまま、試して失敗してうまくいって、また失敗して、改善してマシになってまた納得できず作り直して。
1本の動画を作るのに最低10時間、場合によっては20時間を超えます。
いいものを見てもらいたいという情熱で、選手たちの魅力を知ってもらいたいという情熱で、納得できるまで動画を作り上げることは今に至るまで続く仕事の柱になっています。
緊急事態宣言で企業や学校が在宅主体となった期間には、毎朝8時と正午にTwitterでなぞなぞを出題して正解を伝える「#ユナイテッド時報」を通じて、生活リズムを整えてもらうという企画に挑戦。
徳重クラブ代表といっしょにさつま島美人を飲みながら、ファンサポーターとオンラインで交流する「ユナイテッドのんかた」を配信。
クラブに対して、選手たちに対して、そしてファンサポーターに対して、ピッチに立つことがない自分がお返しできることは何なのか、応援リーダは常に常に自問してきました。
6月末に2020シーズンが開幕すると、毎週月曜日夜に、YouTubeライブ番組「きばれ!ユナイテッドステーション」の配信が始まりました。
その前日、前々日に行われた試合の振り返りをはじめ、育成組織「アカデミー」の試合結果、グッズ情報など、クラブを取り巻く様々な情報を発信して、同時にチャット欄を活用して交流しようという取り組みです。
21シーズンからは共にチームメイトとして戦い、同じタイミングでクラブ職員となった冨成慎司を相方に、より充実したライブ配信を行っています。
当初は視聴者数80人ほどだったのが、100人を超えるようになり、200人を超えるようになり、今では300人を超えるのが通常となり、期待通りに鹿児島県各地そして日本各地のサポーターとの交流の場にもなっていきました。
ユナイテッドの試合の見所をまとめてファンサポーターに届ける永里桂太郎さんはユナイテッドの変わって欲しくない魅力を「クラブとサポーターの距離の近さ」と位置づけ、「田上さんというクラブの象徴がああいう感じだから、ギスギスなりようがない気がします」と評しました。
ただ交流の場になるということは、楽しめることだけではありませんでした。
2020シーズン、2021シーズン、なかなかチームの結果が出ない時期、選手起用やプレーなどチームに関する批判の声が「ユナステ」にも寄せられるようになりました。
批判まではいかなくとも、チームの先行きを悲観する声、敗戦に心を痛める声、様々な取り組みに対する冷ややかな声も寄せられます。
そこで応援リーダーが示したのは、未来に目を向け続けることでした。
敗因に目を背けるのではなく蓋をするのではなく、それは修正されなければならないし、ハイライト映像の振り返りで気になったところは指摘するし、それ以外のことについても問われれば答える。
ただし、そういった課題はチーム内で指導者たちが指摘して修正に取り組んでいることだし、選手たち自身も十分理解していることだと、現場へのリスペクトを伝えることは忘れません。
そして応援リーダーとして、クラブの人間として批判の声を正面から受け止め、その上で「これからできることとして、次の試合で勝ち点3を取りに行く選手たちを後押ししよう」と呼びかけ続けてきたのです。
批判の声に対して、心にダメージを受けなかったわけではありません。
特に誰もがYouTubeライブという媒体に対して不慣れだった2020シーズンは。
それでも、苦しい状況に対しても「絶対に乗り越えてやるんだ」と自身を奮い立たせられるのが田上裕という人間の特性でもありました。
その姿勢が「ポジティブ」と映り、観ているサポーターにも「前向きに応援する」姿勢が伝播していきました。
今では敗戦後のライブ配信で「ポジティブ注入お願いします」という声が寄せられるまでになっています。
まるで故アントニオ猪木の「闘魂注入」です。
もうひとつ大事なのは、相手に自身の考え方を強要するつもりはないということ。
「もうだめだよ」「こんなチーム応援できない」という声に対しても「そんな事言わずに応援を続けましょうよ」というような引き止めをすることはなく、まずこれまで応援してくれたことへの感謝を示します。
その上で「ここで投げ出すのはもったいないと思います。けれど、どうするかを決めるのは自由です」と相手に委ねています。
あくまで田上裕という人間として「反省すべきは反省しつつ、終わったこと嫌なことはすっぱり切り替えて忘れて、これから自分がどうしようかを考えるほうが人生楽しい」という姿勢を貫き、「そのほうがあなたの人生も楽しいと思うけれど、何を選ぶのかはあなた次第」という姿勢も変わることはありません。
ホームゲーム会場でも多くのサポーターに「たのさん!」と声をかけられ、スタジアムに足を運んで下さる方々への感謝を込めて交流を深めて、オンラインでも交流をして、選手たちの代弁者として、逆にサポーターの代弁者にもなり、両者の想いを結びつけています。
小中学校での講話は年間50回を超える頻度で実施していて、子どもたちの夢に全力でエールを送っています。
クラブの応援番組への出演はもちろん、サッカーを離れたところでも鹿児島県各地の名産品を紹介する番組のレポーターを務めて、一生懸命にその名産品の本質をつかんで視聴者に伝えようと工夫しています。
そんな応援リーダーのあり方について、山形屋の雑貨店「What」の店長である宮路さんは「世の中には2種類のJリーグクラブしかないと思います。田上裕がいるクラブか、いないクラブか」と、ローランドのように表現しました。
優劣は別にして、あまり元プロサッカー選手らしくないのは間違いないのではないでしょうか。
もうひとつ、あまり知られていない田上裕の動力源があるとすれば、それは「不安」だと言えます。
「鹿児島で誰もが知っている人になる(その知名度を活かして鹿児島をもっと盛り上げる)」という大きな目標に向かって前を向いて日々進もうとする姿勢だけでなく、その追いかけるものの大きさゆえに生じる「自分にできるのか?」という不安に襲われるからこそ、進み続けることができているのです。
そして「自分がやっていることに意味があるのか?」と立ち止まりそうになる時も、周囲でそれぞれに苦しいものを抱えている中でも応援して下さる方々への感謝の気持ちがあるからこそ、より強い気持ちで進み続けているのです。
鹿児島ユナイテッドFCを応援する最高のサポーターがいて、その想いに応えようと力を尽くす選手やスタッフがいて、そのお互いの熱量に突き動かされるように、田上裕は応援リーダーとして前へ進むことができているのです。
田上裕がポジティブなのではなく、周囲の存在が、田上裕をネガティブにさせず前を向かせている、と表現したほうが正確なのかもしれません。
プロサッカー選手という看板をおろした3年間、田上裕は何度も倒れては立ち上がって、そしてまわりを巻き込まずにはいられない力強さで走り続けてきました。
クラブ内外をひとつにしようと発信し続けて、遠くは昇格という目標に向かい、次の試合では勝ち点3を取れるようにと取り組み続けています。
これまでも、これからも。
そして2022シーズンも最後の2試合を残すのみとなりました。
J2昇格の可能性を残してホーム最終戦を迎えようとする11月11日夜に公開された選手からのメッセージ動画は、これまでになくスムーズに、まるでミケランジェロが大理石から完成された彫刻を掘り起こしたかのようにできあったものです。
鹿児島への、ユナイテッドFCへの、サポーターへの応援リーダーからの想いは、メッセージ動画にすべて込められています。
残り2試合、昇格の可能性を信じて、最高のサポーターと共に、熱く、熱く!!
熱く!!
戦って下さい!!
みんなで最高の乾杯を!!
最高の週末を鴨池で!